工業用UVランプは、紫外線が持つ作用を応用した産業用途のランプのことです。例えば樹脂を固体へと硬化させるUV硬化という作用を利用して、ディスプレイに用いられる光学・機能性フィルムや電子部品製造に用いられるフィルムの加工などを行うことができます。
工業用UVランプの特長や仕組みとは?UVLEDとの違いも解説
工業用UVランプは、光学・機能性フィルムや電子部品製造などの産業分野でUV硬化技術として幅広く活用されており、殺菌や表面改質などの用途でも利用されています。工業用UVランプは他の方式に比べ、殺菌や樹脂の硬化において環境への悪影響が小さく、コスト削減や加工時間の短縮といったメリットがあります。
本記事では、工業用UVランプの特長や仕組み、またUVLEDとの違いについて解説します。
工業用UVランプとは
工業用UVランプの種類
UVランプと一口に言っても複数の種類があり、用途によってランプが異なります。殺菌や表面改質、酸化用光源には、低圧水銀ランプやエキシマランプが用いられています。
印刷機や樹脂コーティング設備等で使用されているUV硬化用光源は、放電タイプとエレクトロルミネッセンスの2種類に分けることができます。
特に放電タイプのUVランプは、電極があるものとないものに分類でき、電極がある有電極UVランプには、代表的な例として高圧水銀ランプとメタルハライドランプの2種類が存在します。
高圧水銀ランプは、微量の水銀※が発光管に封入されたアーク灯(電極の間に電圧をかけたときに発生する放電を利用したランプ)のことを指します。メタルハライドランプは、高圧水銀ランプと同じ原理で発光しますが、発光管内の微量の水銀に金属のハロゲン化物が添加されている有電極UVランプのことです。
※なお、2017年8月に「水銀に関する水俣条約」が発効し、「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」が施行されました。工業用UVランプについては、ほとんどの場合、紫外線発光の特殊用途(「特殊な波長分布を持つもの」)であるため、当該法律が規制する「特定水銀使用製品」には該当しません。現在のところ、工業用UVランプについては、規制を受けておりません。
本稿では、工業用UVランプの中でも、UV硬化用ランプに焦点を当てて解説していきます。
工業用UVランプの原理
工業用のUVランプとして代表的な有電極UVランプは、励起状態になった金属蒸気が基底状態に戻るときに起こる発光と、発光管内の水銀イオンと電子が再結合することで起こる発光を利用する仕組みです。種類によって原理は異なるものの、電気エネルギーを紫外線の光に変換する仕組みを持っていることは共通しています。
工業用UVランプの波長
電磁波には、目に見える可視光線と、赤外線や紫外線など目に見えない不可視光線があり、工業用UVランプでは可視光線よりも波長の短い紫外線が利用されています。
可視光線の波長が400nm~700nmほどであるのに対し、紫外線の波長は100nm~400nmほどとされており、波長の長さによってA,B,Cの3つの種類があります。波長域の幅については、文献によって多少の違いがあります。
<紫外線の種類>
紫外線の種類 | 波長 | 工業界での用途 |
---|---|---|
UV-A(紫外線A波) | 315~400nm オゾン層を通り抜けやすい | ・紫外線硬化 ・接着 ・印刷物の蛍光検出 |
UV-B(紫外線B波) | 280~315nm 全紫外線量の約10%を占める | ・紫外線硬化 ・接着 ・医療用 |
UV-C(紫外線C波) | 100nm~280nm 最もエネルギーの高い紫外線で、 強い殺菌効果から殺菌に活用される | ・空気や水の殺菌 ・物の表面殺菌 |
紫外線は化学的作用を起こすことが知られています。短波長になるほど光のエネルギーは大きくなりますが、その作用を活用して殺菌や樹脂の硬化などさまざまな用途に活用されます。
工業用UVランプの用途
工業用UVランプは、下記のように殺菌や硬化、表面改質、酸化、光反応といった用途で利用されています。
殺菌
工業用UVランプを使った殺菌は、水処理や空気中の殺菌、食品パッケージの表面処置など、さまざまな用途で利用されています。
<UVランプの殺菌の用途>
- 空気殺菌・・空気中に漂っている細菌に紫外線を直接照射し殺菌効果を上げる方法
- 流水殺菌・・水の中に存在する細菌やウィルスを不活性化させる方法
- 表面殺菌・・食品パッケージなどの表面に存在する微生物を紫外線照射し、充填前の食品の安全性を保つ方法
紫外線殺菌の仕組みや効果、注意点などは、以下記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
硬化
工業用UVランプでは、紫外線による「光重合」と呼ばれる化学反応によって、UV硬化樹脂を液体から固体に化学変化させることが可能です。紫外線を照射すると、分子が光エネルギーを吸収し、反応活性種を生成します。光重合とは、この反応活性種が低分子と反応し、重合※の連鎖反応が起きる現象のことを指します。比較的低温で効率よく反応を起こせる特徴があります。
※重合・・・分子量の小さな分子が連鎖的に反応・結合し、より分子量の大きい高分子体を形成すること
この光重合を応用した硬化技術は、「UV硬化」と呼ばれます。UV硬化はエレクトロニクス分野から医療分野に至るまで広範な用途に利用されています。具体的な応用分野は下記の通りです。
- 自動車関連
- 機能性フィルム関連
- 光ファイバー関連
- ディスプレイ関連
- 携帯電話関連
- 印刷関連
- 医療関連
- パッケージ関連
- 電子部品関連
- 建装材関連
- テキスタイル関連
UV硬化が各業界で具体的にどのように活用されているかを詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
表面改質
短波長域を発光するUVランプの照射により、新しい機能を付与すること(表面改質)が可能です。表面改質には、コロナ、プラズマ、フレーム、化学薬品処理などの方法も使用されます。一方で、UV照射による表面改質は他の方法で見られる表面の欠陥が少ないです。また、低熱処理のため基材への熱ダメージがなく、UV照射後の基材の冷却も不要なため、工程を簡略化できるといったメリットがあります。
UV照射による表面改質は、下記のような場面で特に有効です。
- 上塗り層の濡れ性を向上させたい
- 基材に対する上塗り塗料の密着性を改善したい
酸化
短波長域の紫外線の光により、有機物を効率的に酸化させることも可能です。これにより、表面についた油脂や排気臭を軽減することができます。例えば、業務用厨房の排気フードに油脂を付着させたくない、不快な臭気を減らしたい、業務用厨房の火災の危険性を減らしたいといったときに活用できます。
その他にも、UV酸化には、「照射時間が短い」、「取り扱いが簡単でメンテナンス頻度が低い」といったメリットがあります。
光反応
紫外線による光化学プロセスは、化学合成において反応を促進・進行させるのに理想的であり、合成などに活用されています。UVランプによる光反応には、副生成物が少なく、素材にやさしい方法で、構造の精密制御と廃棄率が最小限に抑えられるメリットがあります。
工業用UVランプの特長
工業用UVランプには、殺菌や硬化における他の方法に比べて優れている点があります。
殺菌の用途に関しては、化学的殺菌と呼ばれる方法がありますが、ものによっては有毒な化学物質が発生する恐れがあったり、残留薬品が検出されるリスクがあったりする点が課題です。工業用UVランプであれば、化学薬品を使用しないため人体へのリスクや環境への負荷が低く、コスト面でのメリットもあります。
硬化に関しては、UV硬化のほかに合成樹脂に熱を加えて加工する方法(熱硬化)があります。しかし、高温にする必要があるため加工に時間がかかり、有機溶剤を使用するために揮発性有機化合物(VOC)を放出し、環境や健康に悪影響を与える可能性がある点が課題です。
工業用UVランプなら加工時間が短縮でき、熱に弱い素材や基板を使用する場合にも有用です。有機溶剤を空気中に拡散させないため、環境や健康面のリスクを低減できます。
ただし、昨今では工業界においても、UV LED(工業用UV硬化用UVLED)はUVランプの代替として導入が進んでいます。UV LEDはオゾンを発生せずランプに封入する添加物質の使用もないため、環境への負担が低く、人体へのリスクも低いという特長があります。加えて、長寿命やメンテナンス頻度の低さ、プロセスの効率性や省エネルギーという特長も併せ持っています。
では、UVLEDとUVランプは、具体的にどのように違うのでしょうか?
UVランプの代替となるUVLED。UVランプとの違いとは?
紫外線を活用した次世代の光源として近年注目されているのがUVLEDです。一般的なUVランプである有電極UVランプと比較すると、寿命が長く消費電力が少ないなどのメリットがあります。また、UVLEDはウォームアップのための時間が不要であり、水銀やオゾンを発生しないなど、運用の効率性や環境に与える負荷の面でも違いがあります。
UVランプに比べUVLEDには多くのメリットがあり、UVランプからUVLEDへと置き換えが進んでいます。下記の資料では、工業用UVランプとUVLEDの違いやUVLEDの導入メリット・特徴などについてより詳しく解説していますので、特にUV硬化技術に携わられている方はぜひご覧ください。