排ガス規制と軽量化~進化したホットスタンプ技術~

今や自動車は人類にとって必要不可欠なものです。しかし、人類が自動車を使っていく上で、取り組まなければならない問題もあります。それが自動車排ガスの問題です。世界が取り組む自動車排ガス規制はどのように進んでいるのでしょうか。排ガス規制の背景と、それを解決するための新たな材料ハイテンについてご紹介します。また、赤外線加熱の技術と温室効果ガス削減の関係性についても考えます。

概要

自動車排ガス規制とその背景

世界で最初に排ガス規制に乗り出したのはアメリカです。カリフォルニア州、特にロサンゼルスでは排ガスによるスモッグが問題となり、1962年に州での規制法が制定されました。その翌年、1963年には全米における規制が大気清浄法として制定され、5年後の1968年には全米排気規制が実施されました。大気清浄法は1970年に改正され、ついに有名な「マスキー法」と呼ばれるようになります。このマスキー法は、世界の排ガス規制のもととなったとも言えるものです。

日本での排ガス規制は、ガソリン車が排出するガス規制から始まりました。1966年にCO濃度規制が開始、1973年には、これにHCとNOxが加わることとなります。そしてついに、世界で最も厳しいと言われた日本版マスキー法、排出ガス規制が1978年に制定されます。その後も排ガスに対する規制は数年おきに見直され、段階的に基準を引き上げてきました。

このように、代表的な自動車排気ガス、CO・HC・NOxの規制は進んできたのです。しかし今、これに加え、自動車の排出ガスの問題として世界が注意を向けているのが温室効果ガス、特にCO2です。

2012年までの削減目標を定めた京都議定書では、目標6%に対し8.4%減と日本は目標を達成しました。この京都議定書に変わり、2015年パリにおいて新たに策定されたのが、COP21またはパリ協定と呼ばれる新基準です。COP21では、温室効果ガス排出量削減について2020年からの目標を定めています。これを受け、各国では従来の自動車排ガスCO・HC・NOxに加え、CO2排出量も規制強化に乗り出しはじめました。

日本での具体的な規制策としては、自動車の燃費を基準としています。燃料を多く燃焼させると、それだけ多くのCO2が排出されます。これをもとに、基準となる燃費を定めることによりCO2排出量を規制しているのです。

排ガスを減らすための近道とは

こういった排ガス規制に対応するため、国内自動車メーカーもそれぞれの方向で研究開発を行ってきました。その一つが、エンジンの改良により規制対象ガスの排出量を削減しようという取り組みです。しかしこれは、エンジン内での爆発エネルギーを小さくすることになります。エンジンの出力が落ちるため、運動性能の低下が避けられませんでした。

別の取り組みとしては、原動力の電動化によってガスそのものが排出されない自動車の開発です。電動自動車は、自動車の燃費規制、排ガス規制の面では非常に優秀です。しかし、「電気を使う」ということは、その電気の供給元である発電所において温室効果ガスを発生させていることを意味します。このように地球規模で見たときには、電動自動車も温室効果ガスの増加はゼロではないという側面も忘れてはいけません。

そしてもう一つ、自動車メーカーが進めてきた取り組みが、自動車の軽量化です。自動車を軽くすることができれば、エンジンのパワーを落としても運動走行性能を維持できます。また軽量化は原動力の種類に関わらず、電動自動車・エンジン自動車ともに燃費が向上するため、自動車全体のCO2排出量を減らすのに有効な方法です。

このような理由から、自動車メーカー各社は自動車の軽量化を積極的に取り組んできました。特に軽量化の矛先として目を向けられたのが、自動車の中で最も重い部品、ボディです。ボディは自動車全体の重量のうち平均で3割近くを占めると言われており、これを軽量化することが自動車メーカー共通の目標となったのです。

こうして自動車メーカーからの要望を受け、鉄鋼メーカーではボディの材料となる新素材の開発を進めてきました。従来の鋼板ではなし得なかった軽さを実現する鋼板の開発です。

鋼板プレス成形技術の発展

こういった経緯から、自動車のボディに「軽さ」が求められるようになりました。しかし、自動車のボディに欠かせない条件として、「丈夫さ」も求められます。

そこで、「軽さ」と「丈夫さ」を両立すべく開発されたのが、高張力鋼板=ハイテンです。

ハイテンは、従来の鋼板と同程度の強度を保ったまま薄くすることができる新技術により作られる鋼板です。さらに高張力を実現した超ハイテンと呼ばれる素材も、自動車への採用が進んでいます。

鋼板は強度を上げると成形性が下がるというのが、かつての常識でした。しかし、熱間プレス成形法(ホットスタンプ)という新たな成形技術が確立され、強度を保ちつつ複雑な形状の成形も可能になったのです。

この熱間プレス成形を支えているのが、赤外線ヒーターの発展です。

熱間プレス成形では、金型によるプレス成形の前に鋼板を熱する必要がありますが、ここに赤外線ヒーターが使われています。対流方式の加熱と異なり、接地面積の縮小化と優れた制御性を実現ができ、さらにクリーンな加熱ができることから、精度の高い熱間プレス成形が実現できるようになったのです。

このようにさまざまな技術開発が複合的に進み、新たな素材ハイテンは生み出されました。車体の4~6割がハイテンまたは超ハイテンによって作られるようになり、自動車の軽量化に大きく貢献しています。

こうして、自動車の軽量化によって排ガスを削減する取り組みが、今なお進められているのです。

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地球環境と自動車排ガス問題、そして新たな技術

自動車排ガス規制の歴史と、近年の排ガス問題についてご紹介しました。新たに注目される自動車排出ガスとしての温室効果ガスCO2、それに対する自動車メーカーと鉄鋼メーカーの取り組みから生まれた新素材がハイテンです。

世界は深刻な地球環境の悪化に気づき、自動車の排ガス規制を始めとしたあらゆる施策をに取り組んでいます。その中で、これらを解決するための技術が次々と生み出されています。さまざまな必要となる赤外線加熱プロセスも、同時に進化を続けています。